「アプリの80%は消える」OpenClaw創設者ピーター・シュタインベルガーが語るAIエージェントの未来 🦞🤖
アプリの80%は
消滅する
OpenClaw創設者ピーター・シュタインベルガーが語る、ローカルAIエージェントの思想と、個人がAIを所有することの意味
オーストリア人開発者ピーター・シュタインベルガーは、自身が13年間経営したPDFツール会社PSPDFKit(現Nutrient)を売却した後、燃え尽き症候群に陥り、3年近くコンピュータから離れた生活を送っていた。2025年4月、AIのパラダイムシフトを感じ取った彼は現役復帰。同年11月、わずか1時間で最初のプロトタイプを完成させた。そのプロジェクトは「Clawdbot」から「Moltbot」を経て「OpenClaw」へと名称変更を繰り返しながら、GitHubスター数196,000超という記録的な注目を集めた。2026年2月にはOpenAIへの入社を発表。この会話はその渦中に行われた。
OpenClawは、チャットボットでも、既存AIのラッパーでもない。あなたのコンピュータ上でローカル動作する、オープンソースの個人用AIエージェントだ。WhatsApp、Telegram、Discord、Signal、iMessageなど20以上のメッセージングサービスをインターフェースとして使い、LLM(大規模言語モデル)と組み合わせることで、コンピュータ上のほぼあらゆるタスクを実行できる。
クラウドではなく自分のマシン上で動く。だから「何でもできる」。スマートホーム、ファイルシステム、メールすべてに接触可能。
記憶はあなたのマシン上のMarkdownファイル群として保存される。企業のサーバーに依存しない。データはあなたのもの。
コミュニティが書いたスキルを追加できる。エージェント自身が新しいスキルを書くことも可能。機能は無限に拡張できる。
「WhatsAppとClaude Codeをつなぐだけのもの」として試作。感触は掴んだが、まだ「それ」ではなかった。
AnthropicのAI「Claude」に由来する名前で公開。公開24時間で9,000スターを獲得。
Anthropicから商標上の問題で名称変更を要求される。深夜のDiscordブレインストーミングで「Moltbot(脱皮するロブスター)」に。しかし語感が悪かった。
商標確認済み、ドメイン取得済み、移行コード完成。「オープン・ソースで、ロブスターの爪」——ようやく名前が落ち着いた。GitHubスターは急速に拡大。
OpenAI、Meta双方からのオファーを経てOpenAIへ入社を決断。OpenClawはオープンソース財団へ移行し、独立した形で継続される。
なぜOpenClawがここまで響いたのか。シュタインベルガーの答えは明快だ。既存のAIはすべてクラウドで動いていた。しかしコンピュータ上でローカルに動かせば、できることが根本的に変わる——テスラや照明の制御、ベッドの温度管理、あるいは1年以上前の音声メモをまるごとサーチしてその年の物語を生成すること。「友人にOpenClawを入れてもらい、コンピュータを全部探索して去年の物語を作ってと頼んだら、すごく良いものができあがった。毎週日曜日に録音していた音声ファイルを見つけてきて——本人は忘れていたのに」。
- できることが限定される
- データは企業のサーバーへ
- 記憶は企業のサイロに閉じ込められる
- スマートデバイス連携に制限
- コンピュータでできることはすべて可能
- 記憶はMarkdownファイルとして自分所有
- IoT・スマートホームと自由に連携
- プライバシーをコントロールできる
「MyFitnessPalが要る?エージェントは私がどこで食事しているかをもう知っている。写真を撮れば自動で記録する。なぜアプリが別に必要なのか」——シュタインベルガーはそう問いかける。ToDoアプリも同じだ。「覚えておいて」と言えばエージェントが翌日教えてくれる。どこに保存されているかは気にしない。
| アプリカテゴリ | 従来の役割 | エージェントに置き換えられる? |
|---|---|---|
| フィットネス管理 | 食事・運動を手動記録 | ◎ 自動記録・提案に置換 |
| ToDoリスト | タスクの保存・リマインド | ◎ 会話でリマインド完結 |
| カレンダー | 予定の入力・管理 | ◎ 自然言語で操作可能 |
| レストラン予約 | 検索・予約フォーム入力 | ◎ ボット同士が交渉する |
| センサーアプリ | 生体データの計測・表示 | △ センサー自体は生き残る |
シュタインベルガーが描く次のステップは、「ボット間の自律的な交渉」だ。レストランを予約するとき、私のボットが店のボットと交渉する。もし店が古くてボットを嫌うなら、私のボットは代わりに人間を雇って電話をかけてもらう。これはすでにMoltbookやMoltMatchといったプロジェクトで萌芽している。
ユーザーがメッセージを送り、エージェントが代わりに調査・予約・実行を行う。すでに現実。
私のエージェントが相手のエージェントと交渉し、最適な結果を得る。Moltbookで実験中。
旧来の店舗などボットが通じない相手には、エージェントが人間に作業を依頼し実行させる。
仕事用、プライベート用、人間関係用——それぞれ専門に特化したエージェントが連携して動く。人間の社会が分業するように。
シュタインベルガーの開発スタイルは、業界の主流とは意図的にずれている。その理由は一貫している——「頭の中の複雑さを最小にする」ことで、本質に集中できるからだ。
gitのワークツリーは使わない。リポジトリの複数コピーをそれぞれmainブランチで管理。ブランチ名を考える手間がなく、コンフリクトの制約もない。「mainは常にship可能」。
Claude Codeより処理前に多くのファイルを読むためCodexを好む。速度が遅いのが欠点で、最大10プロセスを並列実行して補完する。「コードは流れていくのを見ている感じ」。
MCPプロトコルは採用していない。代わりにMCPをCLIに変換するツール「MakePorter」を使い、ボットがUnixコマンドとして呼び出す。再起動不要で動的に使えるうえ、スケールもしやすい。
GUIは使わない。複雑さが増すだけだから。同期とテキストだけに集中。設計をエージェントと十分に話し合えれば、コードをほとんど見なくても良いアウトプットが得られる。
シュタインベルガーが最も重要視するファイルがある——「soul.md」だ。エージェントの価値観、人間とAIの関係性における優先事項、コアとなる行動指針を記述したファイルで、OpenClawがオープンソース化されていても、このファイルだけは非公開のままだ。「これがあることで、エージェントの反応が非常に自然なものになる」。
- 人間とAIの対話に関するコアバリュー
- モデルが大切にすべきこと
- 自然な応答・反応を生む行動指針
- ユーモアと個性の源泉
- 記憶はあなたのマシン上のMarkdownファイル
- 企業がデータサイロに閉じ込める構造への対抗
- 非常に個人的な記憶も含まれる可能性
- データポータビリティの本質的解決策
「みんなは中央集権的な神のような知性を追い求めていたが、実際に生まれたのは群れの知性だった」——シュタインベルガーはそう観察する。人間を個人として見ると、iPhoneを作ることも宇宙に行くことも不可能だ。しかし集団として特化した社会ができたとき、それは可能になった。同じことがAIにも起きている。
すべてを知る単一の知性。スケールが難しく、制御が集中する。
専門化した複数のエージェントが協調。OpenClawが体現するモデル。
シュタインベルガーが示したのは、単なるプロダクトではなかった。それは「AIとの関係において個人が主権を持つ」という思想の具現化だ。OpenClawの爆発的な広がりは、クラウド中心のAI体験に対する静かな不満が、世界中の開発者のあいだに蓄積されていたことを示している。彼自身はOpenAIへと旅立ったが、OpenClawは財団として独立し、その哲学は続く。
- CLIを日常的に使う開発者・エンジニア
- データの主権と所有権を重視する人
- スマートホームや複数サービスを統合したい人
- AIエージェントの可能性を自ら探求したい人
- コマンドラインの経験がない一般ユーザー
- セキュリティリスクを管理できる自信がない人
- すぐに使えるシンプルなツールを求めている人